夏といえば花火に海、お祭り・・・そして妖怪の季節です。全国あちらこちらで妖怪系イベントが開催されておりますね。
今回ご紹介するのは、ホテル雅叙園東京で開催されている、「和のあかり×百段階段2023 ~極彩色の百鬼夜行~」です。百鬼夜行の名がサブタイトルにありますように、テーマは妖。これは行くしかない!そう思って目黒へとさっそく飛んでいきました。
百段階段とは?
今回展示の舞台である「百段階段」とは、ホテル雅叙園東京の前身である目黒雅叙園3号館にあたり、1935(昭和10)年に建てられた雅叙園の現存する唯一の木造建築です。
当時屈指の著名な画家達が創り上げた7部屋のそれぞれ趣向の異なる美の世界を、99段の長い階段廊下が繋いでおり、東京都の有形文化遺産に指定されています。
この空間が階段だけであるのは、いくつか理由があります。
昔、隣の棟に繋がる廊下があったのですが、それが不要となり取り壊されてしまったこと。そして、別の部屋を増築しようとしていたのですが、戦時中に焼失してしまったということです。
戦火の中残った百段階段
戦時中、目黒雅叙園は海軍の病院として使われていました。紛争地域等で赤十字を掲げている病院や救護員などには、絶対に攻撃を加えてはならないと国際法や国内法で厳格に定められています。そのため、目黒雅叙園は空襲の被害を受けませんでした。
しかし、延焼によって、一号館と二号館の一部は焼けてしまったのです。
百段の階段がいざなう百鬼夜行の世界
歴史のあるケヤキの階段を踏みしめながら、各部屋を見ていきましょう。
今回は、とくに注目したい、妖の演出をピックアップしてご紹介したいと思います。
最初の部屋「十畝の間」で我々を待ち構えるのは、異界へと続く門のように構える展示物。青を基調とする灯りに引き立てられ、ぐっと引き込まれるような美しさと、怪しさを感じさせられました。
豪華絢爛な「漁礁の間」には、どことなく恐ろし気な雰囲気を持つ面の造形が。あの鬼女は、安達ケ原の鬼婆でしょうか、それとも橋姫がテーマとなっているのでしょうか・・・
美人画の多い、きらびやかな部屋。なのに、どことなく地獄絵図を彷彿とさせるのは、気のせいでしょうか。
「草丘の間」で我々を待ち構えるは、造形作家・人形師のよねやまりゅう氏による妖怪たち。精巧に作られた造形からは、怪しく、内に忍び込んでくるような恐ろしさを感じます。
そして、歌舞伎「紅葉狩」に登場する鬼をモチーフとした展示。散る紅葉、まさに四季の部屋にふさわしい演出でしょう。
鬼女紅葉伝説
平安時代、ゆえあって京の都から流刑にあった紅葉という女性が、都の文化を伝える一方で、人々の心を乱し、他村を荒らし、いつしか鬼女と呼ばれるようになった。鬼女はやがて、朝廷の命で平維茂(たいらのこれもち)により討伐されたという・・・(「北向観音霊験記」より)
紅葉伝説はいくつかありますが、その大半の流れは戸隠山の鬼女・紅葉を平維茂が討伐するというもの。歌舞伎「紅葉狩」では、平維茂が戸隠山で出会ったやんごとなき姫が、実は鬼で・・・という物語を持っています。
清水の間の半分以上をしめる、薄野原。その向こうにぼんやりと浮かぶ、狐面。狐によって、今にも化かされてしまいそうです。
部屋の片隅では宴を催す百鬼夜行たちの姿も。高橋協子氏による作品群です。一体一体が表情豊かで、とても楽しそうです!
まとめ
展示された作品が素晴らしいのはもちろんのことながら、そのお部屋にこれでもかといいほど詰まった日本画の空間。和と妖が織りなす、とても素晴らしい展示会でした。
同時に考えたのが、やはり妖怪というテーマは、閉じられた空間と非常にマッチするということ。
閉じられた空間、すなわちこの展示会でいう各“間”です。「怪しさを演出した空間に、人間を引き込む。」それが今回の百鬼夜行のテーマなのではないかと考察いたします。
そして、妖怪というのは出没する場所というのが決まっております。河童ならば水辺、山童ならば山という具合です。
つまり、「あ、この場所はいかにも出そうだな。」と思わせる。場所からイメージさせることが妖怪の怪しさのひとつ。つまり、妖怪たる要素の一つなのだと考えます。
閉じられた空間に、妖怪らしさを目いっぱい詰め込み、怪しい演出をする。それだけで、我々はたとえそれが本当に本物の妖怪でなくとも、「妖怪っぽい」というイメージを抱くことができるのです。まさに、今回の展示会だったのではないでしょうか。
楽しみながら、妖怪と演出について、考えさせられる機会でした。
詳しい展示会の情報はこちらからもチェックできますので、ぜひ足を運んでみてください!
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