江馬務  ​~妖怪の文化史的研究の先駆者~

江馬務の名を知る人は、柳田國男や井上円了に比べたら劣るかもしれませんが、非常に重要な妖怪研究者の一人です。風俗学者である彼を妖怪文化人のひとりたらしめているのは、その著作『日本妖怪変化史』にあるでしょう。

目次

江馬務にとっての「妖怪」研究

 井上円了は「妖怪」を前近代的なモノゴト(打破すべき迷信・オカルト)として、非難しました。柳田國男は「妖怪」を信仰や神観念と結びつけて、心意伝承としての「妖怪」を作り上げました。江馬は両者と異なり、歴史学の視点に立ち、過去から今(当時)にかけての「妖怪」というモノの沿革を文化史として取り扱います

『日本妖怪変化史』を辿る

 江馬は“変化”に着目し、独自の分類を『日本妖怪変化史』の中で行っています。ここでおさえておくべき点は、江馬にとって“変化”=「妖怪」ではないということです。“変化”というのは「化けるモノ」なのであって、「妖怪」は「化けられる、、、側モノ」、つまり動物や人間と同じく「形の定まったもの」として、捉えられています

 江馬は“変化”する前の形態を五つに分類しています。それが、こちらの五つとなります。

①人

②動物

③植物

④器物

⑤自然物

 江馬はこの原型五種に当てはまらないモノを「妖怪と名付けるより」ない、としています。

 江馬はさらに「妖怪」を分類します。

管理者作成

○○的容姿とは、そうした形に「化ける」のではなく、人間の形に似た「妖怪」、動物の形に似た「妖怪」という意味です。例えば、見越し入道や豆腐小僧は人間に似た容姿ではありますが、人間ではありませんし、猫又も猫という動物に似ていますが、完全な猫ではありません。

 江馬の分類表に従いますと、何かの動物(例えば狸や狐)が見越し入道などに化けることはあっても、見越し入道が何かに化けることはないのです。

 このような江馬の分類した化けない「妖怪」たち、すなわち見越し入道や豆腐小僧、ろくろ首といった「妖怪」は、いわゆる江戸時代に登場した化け物キャラクターです。それらを井上円了は自身の「妖怪学」の外に置きましたが、反対に江馬はそれらを拾い上げだといえます。

まとめ

 江馬は「妖怪」がこの世に実在するのかしないのかを論ずるのではなく、人間が過去にどのように「妖怪」を理解したのか、対応したのかを問題として取り上げようとしました。もちろん、江馬の研究には多くの課題が残されていますが、「妖怪」の研究に歴史学的な意義を見出したという点で評価できるのではないでしょうか。

江馬務は「妖怪」の研究に歴史学的な意義を見出した。

江馬務は“変化”に着目して「妖怪」を分類しようとした。

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